に触れてみてください。触れると、鏡に映る貴方の顔のように絵の左右が反転するようにみえることでしょう。現実の世界からみると物語の世界は鏡の中にあります。なので、現実世界からみると物語の世界は左右が反転してみえるかもしれません。逆に物語の世界からみると現実世界は左右が反転してみえるかもしれません。

でも、本当に反転しているわけではありません。そうみえるのです。本当に鏡の中で左右が反転するというのなら、なぜ上下は反転しないのでしょう。この鏡映反転の謎については紀元前のプラトンも考えたし、20世紀の物理学者も考えました。そして頭を抱えました。2000年以上の間、誰もこの謎を解くことができなかったそうです。現実世界には、解けない謎が沢山あります。物語の世界も、同じです。

Johannes Vermeer

Hans Memling

解きは、時に、とてもうつくしいものです。多くの場合、謎解きには問いと対になる揺るぎない答えが存在し、その答えに辿りついた時、宇宙の理に触れるようなうつくしい喜びが感じられます。その喜びが、この物語の道においては約束されていません。つまり、答えが ない ときが ある。多くの謎について物語の道は答えを示すことでしょう。しかし、すべての謎について、物語の道は答えを示すわけではありません。なぜなら鏡映反転のように、解けない、あるいは解くことが非常に困難な謎が物語の道には存在するからです。物語の世界と現実の世界とで左右が反転しているわけではない。物語の道はどこへ行きつくかもわからないひどくみじめな道の一つである。それでも、物語は書かれずにはいられない。たとえそれが茨の道であったとしても物語の陶酔にまみれていたいと望む愛書家よ、再び矢の指し示すほうへ進まれよ。

留意事項:すでにお気づきかもしれませんが、物語の世界の過去と現在と未来は一つの直線上に順に並んでいるわけではなく、過去の前に現在があったり、過去の裏側に未来が潜んでいたり、未来の後に現在が現れたりします。1頁めくったところに次の頁があるとも限りません。物語の世界を時制の束縛から解放したのはマルセル・プルーストでしたが、そのことについて語り始めると失われた時を求めて長い時間を費やしてしまうので、ここでは時間について詳細には触れません。時間とともにこの世界を構成する主成分となっている空間についての補足説明は、下の星に触れたところに記しています。

C4の菅生トンネルに1つの星が輝きます。

各所に輝く星の位置をGoogleマップ上にマークしていくと、やがて、ある場所へと導かれていくことでしょう。でもそれはまだすこし先のことです

貴方は物語の世界にいる

現実世界は物語の世界からみると鏡の中にある。物語の世界から手を伸ばして絵に触れると、鏡に映る貴方のように絵画の左右が反転するように見えるであろう。ただし、本当に反転しているわけではない。現実の世界は物語の世界からみると鏡の中にあり、物語の世界からみると現実の世界は左右が反転しているようにみえるときがあるが、それはそうみえるだけだ。物語の世界と現実は反転などしていない。もしも鏡の中で左右が反転するというのなら、なぜ上下は反転しないのか。この鏡映反転の謎についてはプラトンも考えたし20世紀の物理学者も考えた。そして頭を抱えた。2000年以上の間、誰もこの謎を解くことができなかったという。貴方はおそらく21世紀の現実を生きているであろう。貴方が生きる21世紀の現実にはおよそ79億の人が生きている。その中にあってもこの謎を正確に解き明かすことができる者は指を折って数えられるほどの数しかいないのではないか。

謎解きは、ときに非常にうつくしい。多くの場合、謎解きには問いと対になる確固とした答えが存在し、その答えに辿りついたとき、宇宙の理に触れるような喜びが感じられる。その喜びが、この物語の道においては約束されていない。つまり、答えが ない ときが ある。多くの謎について物語の道は答えを示すであろう。しかし、すべての謎について確固とした答えを示すわけではない。なぜなら鏡映反転のように、解けない、あるいは解くことが非常に困難な謎が物語の世界には存在するからだ。現実がそうであるように。物語の道はどこへ行きつくかもわからないひどくみじめな道の一つである。それでも、物語は書かれずにはいられない。たとえそれが茨の道であったとしても物語の陶酔にまみれていたいと望む愛書家よ、再び矢の指し示すほうへ進まれよ。物語の世界と現実は反転などしていない。

Johannes Vermeer

Hans Memling

追伸
にお気づきかもしれないが、物語の世界の時制は現実世界の慣習に基づいておらず、過去・現在・未来は1つの直線上にあるものではない。1枚めくったところに次の頁があるとも限らない。物語の世界を時間の流れの束縛から解放したのはマルセル・プルーストであったが、そのことについて語り始めると失われた時を求めて永遠のように長い時間を費やしてしまうであろう。物語の世界で時間が伸び縮みする感覚をみたければプルーストが語る言葉を直接読まれるといい。とても、疲れるであろう。なお、プルーストの友には有機物と無機物の価値を反転させた者がいる。彼の描いた物語はいつか物語の道の轍となっていくこともあるかもしれない。

C4の菅生トンネル内に1つの星が輝く。

ときどきトンネルは別世界へ繋がる道となる。いつか3つのトンネルを抜けて物語の道を行くとき、貴方は優しく傷つく者に出会うだろう。